5.5日目

名前と遊園地に来た俺は、昼までの間に絶叫系の乗り物を制覇した。


名前が連れて来てくれた遊園地は、昨日テレビで見て俺が来たかったところで、素直に嬉しかった。


『次、何乗る?』


当たり前のように俺に尋ねてくれる名前は、今まで俺の周りにはいなかったタイプで、しっかりしてて大人なんだけどどこか不安定で守ってやりたくなるような奴だ。


最初こそ警戒してた俺だけど、今ではくるくると表情を変える名前に少なからず好意を持っている。


「なあ、名前!次あれ行こうぜ!!」


昼食を摂った俺が指したのはお化け屋敷。


名前は少し引き攣った顔をしたけれど、オーケーしてくれた。


「このお化け屋敷は―…」


係のおねーさんが説明を始めると、みるみる不安そうな顔をする名前。


多分お化け屋敷とか苦手なんだと思う。


だけど俺のために嫌な顔をせず入ってくれて、すっげー嬉しかった。


『ねえ、キルア手繋がない?』


入って暫くすると、まだ何も出てきてないのに怖いのか、涙目の名前がそう聞いてきた。


潤んだ瞳できゅっと鞄を握りしめる名前はかなり可愛い。


胸がドキドキと高鳴る。


きゅうっと心臓を締め付けられるような今まで味わったことのない感覚に、俺は内心首を傾げつつ名前の手を取る。


一瞬きょとりとした名前だったが、すぐに嬉しそうにはにかんだ。


その笑顔に顔に熱が集まる。


††††††††††


ここが暗くて良かったと思いながら名前と進んで行く。


びくびくと肩を震わせる名前はかなりホラーが苦手なんだと分かる。


「名前って、実はすっげー怖がり?」


講義しようと口を開いた名前だったけど、足首のほうを見て絶叫した。


名前の足首には白い腕がリアルにあったのは、流石に俺もびびった。


俺がびびるくらいなんだから、名前が怖がらないはずもなく、俺の手を掴んだまま走りだした名前。


「お、おいっ!名前…っ!!」


声をかけるも止まる様子はない。


走っている最中に、なんともベタなお化けが出てきて、名前は何度も悲鳴をあげて走り続ける。


そしてまた出て来た今度は多少怖めのお化けを見て腰が抜けたのか、少し走ると何もない所で名前は座り込んでしまった。


「名前?大丈夫か?」


目線を合わせるように俯く名前の顔を覗き込もうとすると、不意に名前が顔をあげた。


暗闇でも分かるほど走ったせいで赤く色づく頬に、怖さのせいで潤む瞳。


上目使いのまま肩で息をする名前はすっげーエロい。


『こ、怖いよー…!』


ぎゅうっと俺の腰に抱き着いてくる名前に俺は身体を固まらせる。


つーか、顔が名前の胸に圧迫されて少し苦しい。


「ちょっ、名前!!苦しっ……!!」


今の名前は俺には毒でしかない。


必死に理性と戦いながら名前の頭を落ち着かせるように撫でる。


指の間を名前のさらさらの髪が零れる。


やっと落ち着いてきた名前が俺の背中にそっと腕を回した。


顔を俺の肩に埋めて、震えを抑えている姿に胸が締め付けられてキスしたいと思った。


なんでだかは分からないけど、きっと母親が子どもを慈しむような、そんな感じだと思う。


「名前、俺がいるから。俺が守るから。だから出口まで急ごうぜ」


安心させるように声をかけ名前を立たせると、腕を引いて出口を目指す。


名前が転けないように気をつけながらぐんぐん進むといつの間にか外に出ていた。


名前にジュース買ってくると一旦離れ、ドキドキと騒ぎ立てる胸を落ち着かせる。


ベンチに戻ると、名前はへにゃっと笑って俺が買ってきたジュースを受け取った。


その笑顔にまたドキドキと鼓動が速くなる。


―…何だよ、この気持ち。


ドキドキドキドキ、さっきから忙しなく心臓が動いてる。


……俺、名前のこと好きかも。


……………はあ!?好きって何だ。


悶々と自問自答するも、やはり好きという言葉がしっくりくる。


それも恋愛として。


ってことは、今までの胸を締め付けられるようなあれとか、さっきのキスしたい気持ちもまさか。


ちらっと名前を見ると、目があってにこりと俺に笑いかける名前がいた。


…………だあーっ!!もう!!認めるよ、名前が好きだって!!


††††††††††


そろそろ日も暮れて来たころ、名前が最後何乗る?と聞いてきた。


俺は暫く考えて、観覧車に乗ろうと誘う。


やはり、女が好きなのは観覧車とかだろう。


昔、ブタ君の持ってた恋愛シュミレーションゲームで遊園地の最後は観覧車に乗ってたし。


名前はきょとんとした後、にこりと笑った。


『うわあっ!綺麗だね、キルア!!夜空が下に広がってるみたい!』


観覧車に向かい合わせに乗り込むと、名前は景色を見て子供みたいにはしゃぎだす。


ね、と俺に向ける笑顔は無邪気で可愛い。


今まで幾度となく見てきたけど、名前のおかげですっげー綺麗に見えた。


暫く無言のまま二人で景色を見つめる。


やっぱり名前には言わなきゃいけない。


てっぺんに近づいた頃、俺は静かに名前と出会った日のことを語り始める。


名前は黙って俺の話しを聞くと、やはりにこりと笑ったのだ。


『…あのね、キルア。友達に資格はいらないんだよ。この子と仲良くなりたいって思えばもう友達も同然。だから、私がキルアの友達一号になる。ダメかな?』


そう言って笑う名前に、不安になってた俺が馬鹿みたいだ。


名前なら俺のこと受け入れてくれるって分かってたじゃないか。


そこからは今までの気まずさは無くなり、今までよりも距離が近くなったような気がする。


観覧車を降りると、名前が俺の頬にキスしてくるから仕返しとばかりに名前の頬にキスすると、観覧車乗り場のおねーさんがクスクスと笑った。


それに何だか恥ずかしくなり、顔を赤くすると、名前も顔を赤らめていてまた二人顔を見合わせて笑った。


『楽しかったね、キルア』


家に帰り、対戦ゲーム(8勝12敗と、名前はゲームがかなり強い)をして疲れた俺と真琴は、風呂に入るとすぐに布団に潜る。


そこで名前は眠そうにしながら綺麗に笑い、俺を抱きしめるとすぐに寝てしまった。


「ああ…。また連れて行ってな、名前」


俺は幸せそうな顔をして眠る名前の額にキスを落とす。


「おやすみ、名前」


今日は幸せに眠れそうだ。


何となく目を逸らしていた気持ちは認めた瞬間から心を気持ちよく満たしてくれた。



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